ステンドグラスの解説
                        文責  ステンドグラス作家 田中幸男

★ステンドグラスとの出会い

 私が最初にステンドグラスを見たのはもう30年以前になりますが、初めてヨーロッパ旅行をした時でした。1ドル360円の時代です。イギリス、フランス、ドイツ、スイス、イタリアの5カ国です。

 このエッセイを書くために改めてその時のアルバムを開いてみると、至る所でステンドグラスの写真を撮っていたことがわかります。それだけステンドグラスの印象が強烈だったのだと思います。30年たった今日まで、ノートル・ダム大聖堂に足を踏み入れた時の感動は忘れることが出来ません。下から見上げていると、色ガラスを透過した、まるで万華鏡のようなきらめく、色様々な光線の束が目を刺す様でした。一番眼につくのが「南のばら窓」「北のばら窓」と呼ばれる天井真下の大円形のステンドグラスでした。何やら模様が描かれているのですが、肉眼ではあまりに遠目のためさっぱり分かりませんでした。かろうじてその下の人物像が、おそらく聖徒達ではないかと想像したものでした。写真の撮影に熱中するあまりツアーからはぐれそうになり、妻があわてて探しにきたものでした。その旅行中、窓という窓が気にかかり、ステンドグラスを眼で追い続けていたような気がします。
 旅行から帰ってからは、心の片隅ではステンドグラスを自分でも作ってみたいと思いながら、仕事と子育てと労働組合に忙殺され、長い空白期間がありました。ヨーロッパ旅行から10年後、今から20年前、高度成長時代という追い風もあったのだろうと思いますが、日本でもステンドグラスが脚光を浴びるようになりました。もうその時は居ても立ってもおれなくなり、是が非でもステンドグラスを始めたいと思うようになりました。




★ステンドグラスへの挑戦

 その頃、手軽にステンドグラスが作れるというキャッチフレーズで、合成樹脂をガラスのうえに被せて仕上げていく樹脂製ステンドグラスが開発されました。
 まずデザインの輪郭部分をあらかじめネガで製作しておいたフィルムを原盤にして、ケイム(鉛線)に相当する部分を、紫外線で露光した部分だけが固まる感光性樹脂で形成します。その後、色ガラスに相当する部分に、染料で色付けした樹脂を流し込んで固めます。
 この方法だと、色ガラスとケイムでモザイク状に組み立てるガラス製ステンドグラスとは異なり、絵画のように繊細な表現が可能になります。また、器械が大型であるため畳一畳分の大きさのステンドグラスも制作可能です。しかしこの樹脂製ステンドグラスの最大の欠点は、輝くような色ガラスの透明性に欠けることでした。染料の調合次第でどんな色彩でも出せる反面、濁った様な独特の色調はどうしても満足のいくものではありませんでした。とは言っても種々のデザイン、大きさのステンドグラスを制作し、デパートなどの手作り市では、かなりの好評を得ました。
 しかし一方では色ガラス製ステンドグラスの制作も始め、ランプシェードや鏡、テラリュームやアクセサリーなど、を制作していろいろなルートで、販売していました。しかしこれはあくまで趣味の世界であり、細々と続けていたにすぎません。こうした中でもヨーロッパで見た本物のステンドグラスが忘れられず、ずっと一人で暗中模索をしていました。

★独自で到達した
   ステンドグラスの世界


 私はステンドグラスの制作方法を誰からも教わったことがありません。工房も教室も全国ではいくらでもあったと思いますが、絵付けやエッチングまで教えてくれるところは、私の探した範囲では京都では見つかりませんでした。絵付けまで解説している日本語版の指導書もありません。
 そこで、残念ながら今は倒産したと聞きましたが、京都書院という美術書専門店に頼んで、英語版の指導書を取り寄せてもらいました。辞書と首っ引きで翻訳し、やっと絵付けの基本を知識として習得出来たわけです。グリザイユとアラビアゴムとの調合の割合、溶剤の種類、刷毛の使い方、焼き付け温度。シルバーステンの使用方法と焼き付け温度。エナメルの溶剤と焼き付け温度。しかし実際やってみると、すんなりうまくは出来ませんでした。何回も試行錯誤を繰り返し、試し焼きをし、やっといろいろな表現が出来るようになってきました。
 私は制作に必要な道具や制作方法に工夫を凝らし、能率と完成度を高めています。そうすることで製品の単価を押さえ、しかも商品価値の高い製品を作れることになります。また、当工房に通う生徒さん達に短期間に熟達してもらえます。誰からも教えてもらったことのないことが、従来の制作方法にこだわらない合理的な制作方法を編み出したと確信しています。
 ここでは残念ながら、フッ化水素を使用するエッチングの装置、ガラスの直線切りや曲線切りを能率良く且つ正確に行うための器具は、当工房が独自に開発したものですので、公開することは出来ません。

荘厳な大聖堂の天井
北のばら窓
スイスの博物館
フィレンツェの大聖堂

パリ大聖堂(ノートル・ダム)のステンドグラス

ブティックの装飾
Madonna and Child
手作り市の広告
Moses
桜 (一般家庭)
英語版 技術書
英語版 解説書
焼き付け炉と制御器
焼き付けが終わった炉の内部
手作りのランプフォーム(原型)
サンドブラスト機