ステンドグラスの制作工程

基本的なステンドグラスの制作技法は、日本語版の技術書に掲載されていますので、ここで改めて紹介する必要はないと思います。ここで紹介することは、制作工程を短縮し、完成度の高いステンドグラスを制作するために行っている、当工房の基本的な制作工程を紹介するものです。
ただし、当工房が独自で開発した様々な器具や技法については公開できません。
原図の制作

ドラフターを使って制作時間を
短縮します

中央付近の絵付けをする部分は別にデザインをして貼り付けます
一般には、原図を1枚作った後、カーボン紙とトレーシングペーパーを使って2枚複写をし、型紙と保存用の合計3枚を作ります。
当工房が少し違うのは、原図ができれば大型コピー機を使って、複写の手間を省くことです。
一般にほとんど知られていませんが、コピー機によってはA1くらいの大きなサイズになると、原版とコピー版のサイズが数ミリの誤差が出る場合があります。これでは折角原図を作っても使い物になりません。
そこで当工房では、デザインとして可能なら、一番外側のガラスは数ミリ程度拡大または縮小できるようにあらかじめ計算に入れておきます。
仕上がってきたコピー版の外側だけを修正して出来上がりです。ステンドグラス現物での実際の修正はケイム幅を変えて行います。
ステンドグラスは殆どの場合、絵画のような額縁には入れません。真ん中に主題となるモチーフを配置し、その外側に装飾用の枠をつけます。左の写真でもそのようにデザインしています。これが絵画に使用する額縁に相当するものだと私は解釈しています。従ってこの外枠の部分でサイズ調整を行う訳です。

原図制作に使用するドラフターは、20万円以上する器械ですが、実際にガラスを切るときの省力化、正確化を計算しながら寸法取りができます。
従って当工房では写真にある原図の、円形部分、四隅のハート部分、及びこれに隣接する曲線を含んでいるパーツ以外、ガラス切りの際は、型紙を使いません。型紙を使うとどうしても誤差が生じ、後の修正作業が大変になります。
ガラスピースのカット法
上の大きな写真をよくご覧下さい。ガラスとガラスをつないでいる黒い線で所々太くなっている部分があります。この作品はまだましな方ですが、最近格安で出回っている、外国製(どこの国かは申しませんが)は、もうガタガタです。しかし流石に伝統技術を持つ国のものは、丁寧に作ってあります。
何故こんなことが起こるのか?説明の必要もないことですが、それぞれのガラスピースが正確にカットされていないからです。ランプシェードのような立体的なものは、いくら型紙通りにカットしても、組み上げた時にどうしてもうまく合わないこともあります。しかし少なくとも組み上げる直前の段階で隣接するガラス同士が隙間なく(正確にはコパーテープの厚みを残して)ピタッと合致しなければ綺麗な仕上がりが期待できません。
当工房では、全ピースを並べ、お互いの相性をチェックし、修正します。完成度を高めるにはこれが一番重要な作業ですので、十分手間暇をかけます。
ケイムを使用する場合には、ガラスに少々凸凹があってもケイム内に収まりますが、コパーテープを使用する場合には、凸凹はもろに線のガタガタになって出てきます。
しかし細かなラインを正確にカッターでトレースするのは相当の熟練を要します。当工房では生徒さん達に、独自の器具と工法で、短期間に熟達出来るよう指導しています。勿論最後の修正はルーターで行いますが、ルーターに頼ることなく出来る限りカッターでの切り出し段階で、無修正に近い状態にまで完成度を上げておくことが、制作時間の短縮と、熟達期間の短縮につながるものと確信しています。

完成作品

ランプシェードの1/3のガラスピースの相性をチェックしているところ
残りの2/3のガラスピース
コパーテープワーク
左の風船グマをご覧下さい。
ガラスが隣接している部分の境界線は太いですが、隣接していない部分の線は細くなっています。隣接している部分は、2枚のガラスに巻いてあるコパーテープの幅が出てきますので、当然2倍になるわけです。当然と言えば当然ですが、やっぱり不自然です。
その下のミラーの場合は、同じことが起きているのですが、縁全体に螺旋状に捩った太い銅線を巻き付けてあるので全く目立ちません。螺旋飾りの代わりに、縁取り用ケイムを使うこともありますが、風船グマの場合、そういう飾りの縁取りは似合いません。
そこで当工房では、このようにしています。
2枚のガラスが隣接する部分は通常幅のテープで、隣接しない部分はそれより一段、または二段幅広のテープで巻きます。あまり強くやりすぎると不自然になりますが、適度に行うと殆ど目立たなくなります。
2種類のテープを1個のピースで巻く位置によって使い分けるのは確かに手間はかかりますが、一般のお客様が気の付かないことであっても、商品としての価値を高めるためには、惜しんではならない手間です。

下の宝石箱をご覧下さい。
小さなガラスピースを並べて組み上げてあります。小さなピースの集合体ですので通常の半田だけでは強度が足りません。まして蝶番には大きな負荷が掛かりますので、取り付け部分がすぐ壊れてしまいます。箱全体の補強をしなければ、こういうスタイルの箱自体の製品化が出来ないことになります。
表からは全く見えませんが、当工房では箱全体の補強に成功し、他では見られないデザインの製品化を実現しています。

ステンドグラスの製作法にはケイムワーク(鉛線による組み立て)とコパーテープワーク(銅箔をガラスピースの周囲に巻いて半田付けをする組み立て法)があります。
ステンドグラスを始めたばかりの人は、コパーテープワークの方が手軽なので、取っ付きやすいのですが、実はケイムワークよりも難しいのです。その理由は、第一にガラスピースの精度が要求される、第二に半田を美しく流す技術が要求されるからです。
当工房では、ステンドグラス制作のあらゆるノウハウを生徒さん達に教えています。

風船グマ

鏡  リボン

宝石箱